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東京高等裁判所 昭和54年(ラ)897号 決定

抗告人

株式会社服部運輸

右代表者

服部賢蔵

右代理人

紺野稔

外三名

相手方

藤波自動車工業株式会社

右代表者

藤波賢一

主文

原決定中主文第三項の債権転付命令に関する部分を取消す。

抗告人のその余の抗告を却下する。

抗告費用及び申請費用中頭書昭和五四年(ヲ)第五九九二号債権転付命令申請事件に関して生じた部分は相手方の負担とし、その余は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。」との裁判を求めるというのであり、抗告の理由は別紙(一)及び(二)記載のとおりである。

ところで、記録によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

1  相手方は、昭和五四年七月九日、原裁判所に対し、抗告人に対する東京地方裁判所昭和五四年(手ワ)第四七八号約束手形金請求事件の執行力ある仮執行宣言付手形判決正本に基づき、抗告人の第三債務者東京都に対する継続的廃棄物運搬請負契約に基づく請負代金債権について債権差押及び転付命令を申請し、原裁判所は、同日、右申請を認容して本件債権差押及び転付命令を発したこと

2  右債権差押及び転付命令の正本は同年七月一〇日第三債権者東京都に送達されたこと、また、原裁判所は、同日抗告人に対し右債権差押及び転付命令の正本を特別送達に付して発信したが、右正本は、抗告人の本店所在地に抗告人が不在であつたとの理由により足立郵便局に保管され、その保管期間経過後の同月三〇日原裁判所に返戻されて、抗告人には送達されなかつたこと

3  抗告人は、これより先に、東京地方裁判所に対し和議開始の申立て(同庁同年(コ)第八号事件)をなし、同時に和議開始前の保全処分の申立て(同庁同年(モ)第一〇六二八号事件)をしていたところ、同裁判所は、同年七月一一日、和議開始前の保全処分として、「相手方が抗告人を債務者としてなす本件債権差押及び転付命令による強制執行はこれを停止する。」旨の決定をしたので、抗告人は、同日右保全処分を命ずる決定の正本を原裁判所に提出し、これを受理されたこと

4  抗告人は、同年七月一三日当裁判所に対し原決定を不服として即時抗告の申立てをしたが、右東京地方裁判所は、同月三〇日午後二時、右同年(コ)第八号和議開始申立事件につき、「抗告人に対して和議手続を開始する。」旨の決定をしたこと

そこで、抗告人の抗告の理由について検討するに、まず、原決定によれば、原決定には、その差押債権目録の表示として、「金三八一万二五四六円也。ただし、債務者と第三債務者との間の継続的廃棄物運搬請負契約に基づき、債権者が債務者に対して有する昭和五四年六月一日から同年七月九日までの廃棄物運搬請負代金債権について頭書金額に満つるまで」と記載されている事実を認めることができるけれども、原決定中の当事者の表示及び請求債権目録の表示並びに決定主文の記載内容に照らしてみれば、右差押債権目録中の「債権者が債務者に対して有する」との部分は、「債務者が第三債務者に対して有する」と表示すべきところを誤つて記載したものであることが明らかであるというべきである。したがつて、右の点をとらえて、原決定においては被差押債権が特定されていないとか、原決定の被差押債権は存在しないとかいう抗告人の主張は当を得ないものというべきであるから、これを採用することができない。ちなみに、前記保全処分を命ずる決定中の差押債権目録の表示に「金三八一万二四五六円也」とあるのも明白な誤謬であつて、「金三八一万二五四六円也」と記載すべきものであることが明らかである。

次に、債権差押の効力は、債権差押命令正本が第三債務者に送達された時に発生し、同時に当該強制執行手続はこれにより終了するものと見るのが相当であるところ、本件債権差押命令正本は昭和五四年七月一〇日第三債務者東京都に送達され、その効力が生じたのであるから、その後において本件債権差押命令に対し民事訴訟法第五五八条により即時抗告を申し立てることは許されないものというべきである。したがつて、原決定中の債権差押命令につきその取消を求める抗告人の本件抗告は不適法であるから、これを却下すべきである。

しかしながら、債権転付命令の効力は、同法第六〇一条、第五九八条第二項の規定に照らし、債権転付命令正本が第三債務者及び債務者に送達された時に発生し、これによつてはじめて当該強制執行手続が終了するものと見るのが相当であるところ本件においては、本件債権転付命令正本は同年七月一〇日第三債務者東京都に送達されたが、右正本が債務者である抗告人に送達されないうちに、抗告人は、同月一一日前記和議開始前の保全処分として本件債権転付命令による強制執行を停止する旨の決定を得たうえ、同日右決定正本を原裁判所に提出し、同月一三日当裁判所に対し本件債権転付命令の取消を求めて本件抗告に及んだものである。しかして、右和議開始前の保全処分としての強制執行停止決定の正本は、民事訴訟法第五五〇条第二号所定の書面に該当するものと解するのが相当であり、本件のように、債権転付命令の抗告人に対する送達がなされない状態で、右強制執行停止決定が原裁判所に提出された場合は、すでに発せられた債権転付命令であつても、その効力を生ぜしめることはできないものとして、これを取消すのが相当であるというべきである。そうすると、原決定中の債権転付命令につきその取消を求める抗告人の本件抗告は理由があるから、これを認容すべきである。

よつて、申請費用及び抗告費用中債権差押命令申請事件に関して生じた部分は抗告人の負担とし、債権転付命令申請事件に関して生じた部分は相手方の負担とすることとして、主文のとおり決定する。

(杉田洋一 長久保武 加藤一隆)

抗告の理由《省略》

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